
Gallery
Yasuo Tominaga
冨永保雄
KILN
玄洋窯 Genyou Gama, Fukuoka City, Japan
HERITAGE
唐津 Karatsu, trained under Master Eguchi Souzan
人里離れた山あいの
土の中には
私が手にしたこともない
土の華の魂が
人知れずねむっている様な きがします。
そんな土と自分の
出会いを求めて
歩んできた年月です。
Deep within the soil of secluded mountain valleys,
there seem to rest,
unnoticed and unseen,
the hidden blossoms of clay,
their souls yet to be unveiled.
The passing years
in search for such an encounter—
between that clay,
and myself.
- 冨永保雄 Yasuo Tominaga
生涯をかけた探求
50年以上にわたり作陶に向き合ってきた富永康夫氏。その評価は、長年にわたる地道な制作の積み重ねと、同業者からの信頼、そして陶芸への揺るぎない探求心によって静かに築かれてきました。
富永氏は1969年より唐津の名工・江口宗山氏に師事し、唐津茶陶の系譜を受け継いできました。日本伝統工芸展や西日本陶芸美術展への入選を重ね、これまで数々の賞を受賞しています。また、日本工芸会正会員としても活動しています。
しかし、富永氏を語る上で最も大切なのは、展覧会歴や受賞歴ではありません。
その人柄と、作品に宿る佇まいです。


素朴さのその先へ
富永氏の茶碗や湯呑、急須に触れてまず感じるのは、唐津焼ならではの土味豊かな表情です。しかし、その奥には「繊細さ」という言葉がふさわしい、静かな品格が息づいています。
形のわずかな均衡、手取りの心地よさ、表面の微妙な変化。その一つひとつへの細やかな配慮によって、素朴な美しさはより深い味わいへと昇華されています。富永氏の器は、意図的な力強さや粗さによってではなく、長年培われた感性によって、わび茶の精神を静かに表現しています。使い続けるほどに新たな魅力が現れ、持ち主との時間を重ねていく器です。
60年近く作陶を続けてきた今もなお、富永氏の探求は終わりません。新たな造形や土づくりに取り組み、イチゴの蔓や身近な植物を灰にした自家製の灰釉づくりにも挑戦し続けています。
その姿勢は指導の場にも表れています。知識や技術を惜しみなく伝え、評価や肩書きではなく、生徒が何かを発見した瞬間に喜びを見出しています。
今日もまた、その探求は玄洋窯で続いています。
Genyou Gama
玄洋窯
富永さんの世界へ
玄洋窯は、福岡の街を見下ろす静かな丘の上にあります。眼下には市街地が広がり、その先にはかつて玄洋灘と呼ばれた海が望めます。都市の喧騒から少し離れたこの場所を、富永氏は自らの創作の場として選びました。
窯の裏手に広がる山もまた、創作の一部です。竹はヘラとなり、木の枝は道具の柄となり、蔓は急須の取っ手へと姿を変えます。春には桜が咲き誇り、季節ごとに移ろう草花が窯場を彩ります。玄関先にさりげなく活けられた花々からも、自然へのまなざしが感じられます。
玄洋窯には、富永氏が長年親しんできたものが自然と集まっています。土、茶、植物、魚、道具、そして手仕事の品々。それらが同じ空間の中で穏やかに共存しています。
ギャラリーや和室、囲炉裏のある空間からは福岡の街並みを一望することができ、そこは単なる工房というよりも、作り手の暮らしや価値観そのものが映し出された場所のように感じられます。
土に触れ、茶を楽しみ、自然とともに過ごす日々。
玄洋窯を訪れることは、富永氏が大切にしてきた世界にそっと触れることでもあります。
三つの表現に宿る、五十余年の研鑽
黄伊羅釉
KI IRA Glaze
伊羅保釉(いらぼゆう)は、高麗茶碗に見られる黄味を帯びた釉調を特徴とする釉薬です。焼成によって生まれる柔らかな温かみと奥行きのある表情が魅力です。
釉薬の調合や焼成条件によって発色や流れ方は大きく変化し、その表情は作り手ごとに異なります。同じ釉薬を用いても、まったく同じ景色になることはなく、一点ごとに個性豊かな仕上がりを見せます。
粉引
KOHIKI
鉄分を多く含む土に白化粧を施し、その上から釉薬を掛けた作風です。
白化粧の工程によって、作り手の手の動きや表情が器に残り、一つひとつに自然な揺らぎと個性が生まれます。
また、土味を感じられる素地は適度な吸水性を持ち、使い込むほどに色合いや風合いが少しずつ変化していきます。日々の使用を通して育っていく、味わい深い器です。
炭化 / 蒸し焼
TANKA / MUSHI YAKI
炭化焼成による表現
焼成中に器を煙で包み込み、表面に炭化による黒や灰色の表情を生み出す技法です。
煙の流れや窯内の環境によって景色は大きく変化し、その現れ方は一点ごとに異なります。同じ条件を再現しても、まったく同じ模様や色合いになることはありません。
偶然性と自然の力が織りなす、唯一無二の表情が魅力です。
The Katakuchi
片口
片口は、縁の一部に注ぎ口を設けた日本の伝統的な器です。
古くから酒器として親しまれ、ときには料理を盛る器としても用いられてきました。その姿には、長い年月の中で育まれてきた日本人の美意識や、使いやすさへの工夫が静かに息づいています。
均整の取れた形、手にしたときの安定感、そして注ぐという動作の美しさ。片口は、実用の中から磨かれてきた器でもあります。
近年では、複数人で抹茶を楽しむための器や、現代的な抹茶ドリンクをつくるための器としても使われるようになりました。その新たな使い方は、片口という器の魅力を改めて見つめ直すきっかけにもなっています。
今回、富永氏に制作をお願いしたのも、そうした思いからでした。
日本の美意識によって長く受け継がれてきたこの形が、現代の茶の時間にどのような豊かさをもたらすのか。その可能性を探りたいと考えたのです。
片口は今もなお、本来の役割を大切にしながら、新しい用途の中で生き続けています。
そしてその一杯の茶を通じて、人々を器の歴史や手仕事、そして日本の文化へと静かにつないでくれる存在でもあります。
Irabo Katakuchi




Ichigo Kohiki Katakuchi



